本文に入る前に、高部教授のお話の骨子を一文でまとめてみます。
「現在廃棄されているユーカリの樹皮をバイオエタノールとして利用できるように研究が進んでおり、進捗と展望は中々有望だといえる。」
では、正確で詳細な内容を本文でみていってください。
「製紙材料として使われるユーカリの廃材となる樹皮をバイオエタノールとして有効利用する方法の模索」
☆まずはユーカリを用いた製紙の現状をまとめます。
現在オーストラリア西部のパース近郊のアルバニー地区で、日本の王子製紙㈱がユーカリの樹を植林し、それを原料に製紙を行っています。伐期(樹を植えてから木材として伐採するまでの期間)は10年で、王子製紙の製紙原料全体の約10%を供給しているそうです。詳しくは此方のURLをご覧ください。(王子製紙㈱HP 環境への取り組みhttp://www.ojipaper.co.jp/envi/mori/syokurin/apfl.html)
オーストラリア国土には全体の2%ほどしか森林がなく(cf.日本では67%)、とくに西部では1%しか森林は形成されていません。しかし、この地域でのユーカリの成長速度には凄まじいものがあり、10年で平均15m高、直径30cm弱にまで達するそうです。急速な成長と伐採に伴う地力の低下が心配されるところですが、第三伐期にあたる現在では土痩せの実感はないとのことです。
王子製紙が植林しているのはユーカリの中でもグロビュラス種というもので、これが製紙に大変適した材なのだそうです。また詳しくはあとで述べるのですが、樹皮の性質もバイオエタノール発酵に向いているのだそうです。製紙にはユーカリの木質(皮をむいたあとの材)のみが用いられ、現状この樹皮は廃棄されています。廃棄とはいえ植林地に放置されて腐朽して土に還り、地力の維持に役立っているのだそうですが、菌は有機物を腐朽させるときに二酸化炭素を放出します。そこで樹皮を発酵させてカーボンニュートラルな(化石燃料のように空気中に新たなCO2を排出しない)エネルギー源とし、発酵後残った残渣(かす)(樹の生長に必要なミネラルを多く含む)を土に還そう、というのが高部教授達が進めている計画です。
食料をバイオエタノールにすることの愚かさは世界の現状をご覧頂ければ明らかでしょう。そのため、循環型社会の達成のためには、こういったこれまで廃棄されていたようなものからエネルギーを取り出せるようにすることが大切です。この研究が達成され、技術が実用段階に至れば、ユーカリだけでなく広葉樹の樹皮の汎用的な利用法となり、たいへん有望です。
現状では技術の未発達によりエネルギー収支が負になってしまいますが、常温常圧で酵素発酵などができるようになればまさしく革新的な進歩となります。実際、反応のエネルギー収量自体はとても優秀で、現在の技術で100gの樹皮から51.1gのアルコールが得られ、これはエネルギー換算にして91%の収率だということです。 …すごいですよね、これ!!Σ( ゚Д゚)
では、何が障害となっているのか。ずばりその答えは、「リグニン」という物質です。しかしリグニンは決して悪者ではありません。これなくして樹は樹たりえないし、また地上植物すべてにとってこのリグニンは不可欠なのです。これは植物体を強固に支え、根から吸い上げた水分を上部まで導くための管を補強し、水分が逃げないようにします。よく、鉄筋コンクリートの鉄筋がセルロース系繊維、コンクリートがリグニンだ、と例えられます。しかしこの強固さと緊密さにゆえに、バイオエタノール化計画の前には、強大な壁として立ちはだかるのです。
現在は製紙などのためにも化学的な方法(エネルギーを多量に消費)で無理やり除去されているリグニンですが、これが常温常圧の省エネモードな酵素反応で分解できるようになれば、植物体を余すところなく現実的なレベル(将来性を加味すれば石油などにも匹敵する規模)で利用することができるようになるでしょう。
ここから化学的に専門ぽい話になるので、興味ない人は黒字に戻るまで飛ばしてくださいね。樹の構成成分のうち、現在の発酵技術でバイオエタノールにできるのはセルロースとグルコマンナンなどの6炭糖に限られ、5炭糖の類は発酵できません。ここにも研究の余地があるといえます。また、再びリグニンの話に戻りますが、リグニンにも3つの種類があります。グアイアシルリグニン、シリンギルリグニン、ビフェニルリグニンの3つです。この中でも厄介なのがグアイアシルリグニンで、分解法の確立に最もてこずりそうです。これはコニフェニルアルコールが重合したもので、主に針葉樹に多く含まれます。それに比べて、広葉樹、とくにユーカリに多く含まれるシリンギルリグニンは除去も比較的容易です。上で「ユーカリだけでなく広葉樹の樹皮の汎用的な利用法となり、たいへん有望」と述べたのも、それゆえです。
次に現在とられている主なリグニンの除去法をあげます。製紙工場では化学的手法でリグニンを可溶化して取り除き、他の化学製品の原料として利用するのが主流です。研究レベルでは、白色腐朽菌によるリグニン分解の利用が試みられています。しかし菌も生き物ですから、エネルギー源を必要とします。ゆえに彼らはリグニンを分解しながら、われわれの目的としている木質中のエネルギー源(セルロースなど)まで分解してしまうのです…^^; そこで考えれるのが、菌がリグニンを分解するときに用いる武器、則ちリグニン分解用の酵素を抽出し、用いるという方法です。これもそう簡単にできるものではないらしいのですが、研究の進展が期待されます。
上で長々とリグニンの分解法を紹介しておいてなんですが、実はユーカリの樹皮発酵においてリグニンの完全分解は必要ではありません。セルロースとグルコマンナンのそれぞれを分解する酵素が入る隙間さえ開ければよいのです。そこで用いられているのが「CO2水熱処理」です。CO2水はつまり炭酸であり、これに樹皮を浸けて熱を加えるということですね。これを数時間(温度を170~180℃まであげることで時間短縮)行うことで、リグニンの壁(植物細胞の二次壁)に無数の小さな傷ができます。これをナノクラックといい、4nmほどの隙間です。これだけあれば酵素が通り抜けるには充分なのです。しかしこの方法ではエネルギーの採算がとれません。つまり、やればやるほど損をするということです。やはりリグニン自体を常温・常圧で分解できるような酵素群の開発などが望まれるところです。
樹もホモサピエンスによってバイオエタノールにされるために生えているわけではありませんから、障害があるのは仕方ありません。現行の研究に応援と期待をよせるばかりであります。そこで、リグニンの問題が解決されていない状態で植物バイオマスをエネルギー利用する場合を考えてみます。まず発酵原料を樹以外に求める場合。
①綿、酢酸菌…ワタのもこもこは実はセルロースであり、酢酸菌も自らの表面に盛んにセルロースを合成します。しかし相応のコストが見込まれますし、ワタにいたっては農地が食料作物と競合して現行の食糧バイオエタノール事業の二の舞となる可能性すらあります。
②海藻…陸上植物はリグニンなくして立つことも水分を吸い上げることもできませんが、海の中ならどちらも問題になりません。ゆえに、より原始的植物である海藻には基本的にリグニンがありません。実際に海藻からバイオエタノールを得る研究をどこかのグループがしています。具体的な記憶がなくて申し訳ありませんが…。こちらもなかなか期待できるのではないでしょうか。
③筍…タケノコは食べられますよね。食べられるということは、リグニンが殆ど含まれていないということです。そこから、「昨今森林侵食などで悪評の立ってしまった竹を利用してバイオエタノールにすればいい、しかも中途半端に成長して筍として食べるにも材として利用するにもむかないものを利用すれば一石二鳥だ」、という考えが浮かびます。しかし一見うまくいきそうなこのアイデアですが、竹にも固有の微量成分があり、これが発酵反応を阻害してしまうそうです。
④古紙…上で述べた製紙段階において、紙中のリグニンは殆ど除かれています。つまり紙はセルロースの塊といえます。それならこれを発酵すれば…!! と思うところなのですが、古紙は案外高く、コストの採算がとれないらしいです。中国が大量に買っていくそうで。
やはり、可能性は様々な素材にあるが、それぞれが相応の克服すべき点をかかえているということですね…。その分研究の余地があります。
項の終わりに、木質中のリグニンを無視してそのまま利用する場合を考えてみます。この場合、ユーカリの樹皮などもペレット状に再成型され、そのまま燃料として使用されます。今のところ木質ペレットとしての利用は主に製材所から出るおがくず等で行われています。バイオエタノールも木質ペレットも熱エネルギー源として利用できる点は同じですが、燃料性能のほかにも以下のような違いがあります。
Ⅰ、化学原料として利用できるか…バイオエタノールであれば、石油の代替原料となることもできます。
Ⅱ、輸送性…木質ペレットなどの固体はトラックや鉄道といった手段でしか輸送できません。対して、バイオエタノールなどの液体はパイプラインも利用でき、循環型で恒常的な利用がなされるのならこちらの方が望ましいといえるでしょう。
以上が高部教授のお話から学べたことの概要です。長々と申し訳ありません^^; 次項にて教授がお話しくださったことから雑学的なものなどを軽くまとめ、記事を終わらせたいと思います。
☆オーストリビア(豪州雑学)
1<山火事>
オーストラリアでは山火事が頻発するそうです。先日も今までにない規模の山火事が起き、2/11現在で181人もの人が亡くなってしまったそうです。大変哀しいことでお悔やみを申し上げるところです。
こんな火事が頻繁に起きてしまったら2%しかないオーストラリアの森林はすぐになくなってしまいそうですが、流石自然の植生は力強いですね。オーストラリアの森林にはこの山火事に適応したものが数多く生えているそうです。マツの仲間で、「火事の高温を引き金に実を弾けさせ種を飛ばし、生息域を広げる」という生態を持っているものもいるそうです。勿論我らがユーカリも負けておらず、山火事が起きても素で耐えるらしいです。つまり、表面が焼かれて黒こげになっても中は無事で、成長を続けるそうです。直径15cmを超えたあたりからこんな芸当ができるそうで。なんという逞しさ。黒こげた皮も成長とともに剥けるそうです。
日本人からすればかなり
2<ハーベスター>
一般には収穫などを行う農業機械を指し、日本では脱穀機のことを主にこういうそうですが、林業では伐採から皮剥き、葉枝落とし、適切な長さへの切断までできる優れもの伐採機をこう呼びます。アルバニーのユーカリ畑ではこのハーベスターが通れる幅で植林がなされ、伐採の時期には端から順に怒涛の勢いで木々が捌かれていきます。慣れた人が使えば1本捌くのに30秒ででき、一日千本も可能とのことです。 Σ ゚ ゚ ( Д ;;)
日本にも補助金を使って導入はされているのですが、急峻な山地では流石にこんな高効率は叩き出せないし、うまく使えていないところも多いとのこと。無駄というわけではないのですが、考えるべき問題ではあります。
ハーベスターはピンとこないかもなので図解しておきますね
3<車とカンガルーとGPS>
高部教授が車で山に入ろうとしたとき、車に必ずGPSアンテナを装備するよう言われたそうです。本当に居場所を見失ってしまうこともあるらしいので。流石豪州は規模がでかい。
地元の車にはそれぞれゴツいバンパーもついていたそうです。用途はカンガルー避け。衝突してしまうと本当に車体が破損してしまったりするそうです。流石豪州は野生生物もでかい。
あと、アルバニー周辺では一般道の制限速度が110km/hだったそうです。流石豪(略
以上で2/3(火)勉強会のまとめを強引に終わります。冗長になって申し訳ありませんでした。書籍化とか意識して噛み砕いて書こうとした結果がこれだよ…ッ
原田でした。
とっても素晴らしい報告を本当にありがとう!なんかすごく素敵な本が出来るのも全然夢ではないような気がしてきた・・・!
ReplyDeleteよく復習できたばかりでなく、本当により深く理解できました。見習って私も頑張ります(>V<)ヾ